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ECの人材と育成について

 

EC の人材の獲得と育成について、結論から言ってしまうと、獲得は外部人材の募集を実施して、もしよい人が見つかれば採用するといったくらいのレベル感で、ただ、必要なタイミングで必要なレベルの人が見つかる可能性は低いため、結局、内部育成していくことになるということです(これは、ECに限らず、筆者が得意とする新規事業などのビジネス全般に言えることです。DX、デジタルビジネスをはじめ、アナログでの新規事業などもです)。今回の機会に、どのスキル、人材がEC業務に向いているか、どう育成していくかを、事業者側視点で書いていきたいと思います。

筆者は長くEC事業責任者として人材獲得、育成をし、今は、事業者側に寄り添った(自身が事業部長としてやっていたことをほぼそのまま)コンサルティングをしています。本来、経営・事業コンサルティングか新規事業コンサルティングなのですが、この分野でのご評価が高いために強いため、ECコンサルティング、EC戦略コンサルティング、オムニチャネルコンサルティング、OMOコンサルティングなどと呼ばれたりしています。ここ10年の間に全体ではECに関する人材は少しは増えたと言えますし、トップランキングのEC事業者では、人材はある程度そろってきていますが、いまだに、圧倒的に数が足りません。質はというと、ある程度経験をされた担当者のレベルは低くはないのですが、本人たちに自信がなかったり、(担当者がECに詳しくない段階からを知っている)経営から評価されていなかったりで、結果、目線を高くできないという意味では十分ではありません。経営者の口癖は、「当社にはECに詳しい人間がいない」です。

 

 

■EC業務とは

最初に、あちこちで書いていますが、ECの業務というのは、全体で一つのファンクション(機能)ではなく、損益を見る事業や支援的な役割ということは関係なく、いくつもの機能、業務を合わせて、目標(売上や利益、そして目指す顧客体験)のために全体でビジネスと考えてください。

ECの物流、ECのマーケティング、ECのシステムなど、「ECの」をつければ、企業内に存在するほぼすべての業務が、ECの業務となってしまいます。ですが、実際は、EC全体を単なる一つの機能や業務と考えられることも多く、本来の包括的なビジネスと考える場合とで、必要な人材のイメージ、育成の方法が全く違ってきます。小売や顧客の行動、ECの仕組みなどの地味で当たり前のベースとなる知識と、それらが何のために行われているのか、そして、どういうことをすればその通りになるかという基本の考え方の上で行われる業務です。

 

理解の十分でない経営層などが思うEC業務のイメージは、システムやWebマーケティングくらいです。その発想では、それら一つ一つは機能なだけであり、ECの業務をすべてカバーするものではありませんし、一つの機能をだけではEC業務とは言えないかもしれません。ここで説明しようとしているECをビジネスとして達成するためは、複数の機能または複数の機能を持つ業務となります。

 

■EC担当者とは

そして、EC担当者とは誰のことでしょうか? 小さめの規模でECを運用している場合は、少人数が役割を分担しているというよりも皆でほぼすべての業務にあたっています。この場合は、この全員が間違いなくEC担当者です。

大きな規模になってくると、全体を見ている責任者は役職がついているので、EC「担当者」とは呼ばれにくくなるかもです。チーム/部門を構成する制作担当者、MD担当者、マーケティング担当者などなどの人は、他部署、他社からは、EC担当者と見られます。部門内では、ECの制作担当者、ECのMD担当者、ECのマーケティング担当者などという認識でしょう。

それらをひっくるめて、何をEC担当者と呼ぶかは難しいところですが、EC人材不足の中では、どの役割であろうが、ECに関わる業務を担当したことのある人はEC担当者と呼ばれるのでしょう。

 

■ECの組織と業務

ECにはどんな業務があって、どんな組織で行われているのでしょうか?

組織では、店舗や他のチャネル、メディアを利用しより大きな考えで実施されているオムニチャネルやメディアミックスでの販売の一部の役割とされている場合を除くと、ざっくりと「ECに関連する業務と一つにまとめた事業部的組織」と「EC独自の機能などを持った部門と、MDなどの事業寄りの部分を各事業部/物流などの機能を既存組織の部門の中に分散して配置した組織」にわかれるのではと思います。これらは何が正解というわけではなく、会社の成り立ち、種類、ECをはじめてからの期間、成長の度合いにより、多様とも言えます。

 

【図 全社の中での位置づけ2つ?】

 

この二つの形でどこに所属するとしても、大きくは、下記のような業務にわかれると思います。

MD、商品情報作成、商品登録、マーケティング、制作、システム、受注処理、出庫処理、物流業務、CS、(事業)企画など。先ほどの、複数の機能があるということです。下記の図ほど、担当者が細かく分かれている事業者はほとんどなく大幅な兼務や外部のパートナーなどへの依頼で行っています。業務も種類が多いということだけを見てください。

 

【図 部門組織図】

 

 

■EC担当者のキャリアアップ

人材のタイプや育成にフォーカスする前に、この組織の中でのキャリアップはどういったものになるか考えてみましょう。

大枠には、各機能職のなかの役割(タスクレベル)から複数の役割を担当していき、次に複数の機能職を担当し、EC全体の役割にかかわっていくということでしょう。ECビジネスの中であれば、事業またはビジネス責任者が最終的なポジションかもしれません。(それから先は、EC以外のビジネスの役割を担当し経営層となっていく場合、社内にデジタル素養のある人材が少ない場合は、EC以外のオンラインマーケティングを担当することや、システムやDXを担当することになる場合もあると思います)

例えば、マーケティングの中でのメルマガ作成⇒メルマガの企画/運用⇒複数のマーケティングの役割を担当⇒マーケティングに加えMDも担当⇒さらに制作なども担当⇒サービスの追加やサイトのリニューアルも経験⇒EC全体の事業責任者または準ずるポジションになる、などでしょうか。もちろん、どこかの段階で守備範囲を広げるのではなく、よりレベルを上げていく専門職的になるキャリアもあります。

EC担当者は、EC事業者の中で、また、これから取り組もうとしている事業者にとっても、非常に不足しています。少しでも関わった人は、人材紹介に登録するとすぐにオファーが届きます。なので、社外に向けてのキャリアップも多いと言えます。ただし、あまり身についていない段階では、新しい環境下において自力で身に着けるか/育成してもらうということになります。できれば、EC業務の中のどの分野かだけでも胸を張れるレベルになってからの転職がよい気はします。

しかしながら、社内の人材や新卒で賄うよりは、ほんの少しの経験だけの外部からの人材でも、採用して育成するほうがよいという考えもあります。筆者がいた事業会社でも、支援してきたクライアント企業でも、そのような人材を採り、育成して戦力化することはよくやっていました。とはいっても、育成する側の人がいないと大変でしょう。

 

■どんな人がEC担当者に向いているか?

いきなりECの責任者にという場合を除きますが、特に向いていない人というのはないと考えています。あえて言えば、これまでの経験に固執するか、引きずられるかどうかということはマイナスの要素になります。

まずは、

・ネット、ECに詳しくなくても構いません。

早く馴染んでもらうということであれば、自身でECを使い買い物をある程度している人、PCやスマホを使える人、といったレベルです。

逆にブランディングのオンラインマーケティングに特化しすぎた経験のある人や、これから取り扱う商材の価格や顧客層などが大きく違う商材のECにかかわった人などは、感覚や意識を変えるのに時間がかかる可能性もあります。

今は違いますが、EC創世期には、ECやネット、システムに趣味的に詳しい人が配属されてきて、そういう人は、自身が仕事外で得てきた知識などにこだわりがありすぎ、ビジネス(業務)レベルにシフトチェンジするのに時間がかかっていました。なので、趣味的に詳しい人は向いていないとしていましたが、今はそんな状況にはあまりないようです。

・デジタルにだけまみれているのではなく、こつこととした地味な作業もできる人

逆に多くの業務は、デジタルだけにまみれているわけではなく、登録やチェックなどアナログな地味な作業も多いので、そういったことをいとわない人です。

・既存のメインビジネスの基幹となっている部門や業務からの人材

会社が他の事業をしていて、その事業がECに大きくかかわっている場合は、既存のメインビジネスの基幹となっている部門や業務からの人材、小売で言うと販売、MD、物流などからの人材は、実はECに大きく向いています。

本人がやりたいやりたくない、好きか嫌いかは別にすると、実は、実店舗小売や通販などに関わっていた人はすべてEC担当者に向いています。

特に商材が同じ場合は、ぜひともという感じでしょうか。意外に思われる方もいるかもしれませんが、店舗などのリアルでの経験は、ほとんどがECでも大いに役立ちます。商品特性や顧客との感覚を身に着けるほうが、ECの知識を身に着けるよりもものすごく時間がかかります。若い方には違和感があるかもしれませんが、ECはまだ歴史の浅い分野ですので、ある程度の業界標準のレベルになるのにそんなに時間はかかりません。逆に販売やMDの仕事は、認められるレベルになるには大いに時間がかかります。

ただ、そんな貴重な他部門からの人材のEC担当者への育成に重要なのは、リアルではない業務の存在、時間軸やメディア特性などいくつかある、それが決定的となる「リアルとの違い」を認識、腹落ちしてもらうことでしょうか。逆に他は素晴らしくても、この認識、腹落ちができない人は向いていないと言えます。

また、既存ビジネスで実績を持っている人、関連する他部門との関係性、いろいろなことの依頼をしやすくなるというメリットもあります。既存ビジネスと関連しているということは、後から始まったEC側からの関連ビジネス部門への依頼事項が多く、自分たちはこれまでのやり方を変えざるを得なくなることや、または、ECにかかわることで業務が増えてしまうなどがあります(多いです)。それをお願いする際に、既存ビジネスのことを全然知らない担当者や既存ビジネスで評価されていなかった人が依頼に行ったとしてもなかなか簡単ではありません(会社全体の方針で決まっていても、現場ではちがいますので)。そこで実績のある担当者がいけば、「あいつのいうことだからきいてやろう」とスムーズに運ぶということです。

 

向いていない人

上記しましたが、あえて言えば、これまでの経験に固執するか、引きずられる人向いていないと言えるかもしれません。時間がたてば解消される人であっても、解消までの期間では向いていないといえるでしょう。

・その流れでいうと、同じ業務を長くやりすぎていて、新しい業務や考え方を受け入れられなくなってしまっている人は(ECに限らず新しい業務には)向いていません。若い方にはわかりにくいかもしれませんが、長く同じ仕事を同じやり方で同じ環境でやってきた人には、自身の関連する業務の範疇から外れてしまうと、頭が真っ白になり思考停止してしまうようなことがあります。短期で切り替えができればよいのですが、元の業務ではとてもできる方が、ECではある程度時間をかけても全く駄目だったという場合もあるわけです。

・上記した決定的となる「リアルとの違い」をどうしても認識、腹落ちできない人も向いていません。

・後は、他の業務でも同じように、仕事ができない人、仕事をしたくない人といったレベルでしょうか。

・まだまだ新規ビジネスと捉えられることの多いECなので、業務が他の部署の後工程となり開始が遅い時間になることや締め切りまでの時間が短くなったりもします。また、新しいことが多いためはっきりしないこと、手順がわからないのに、納期までに仕上げなくてはいけないことが多く、ハードワーカーでないと向いていないかもしれません。また、次々に新しいツールや手法が登場してくるため、その導入は通常の業務にプラスされるので、忙しくなるわけです。望ましい要件でよく言われる「地頭がよくて、コミュニケーション能力が高くて、ハードワーカーな人」そのものなのですが、それは単純に、どんなビジネスでも欲しい人材ではあります。

・新しいだけで考えもなく飛びついてしまう人、バズワードに惑わされやすい人は、向いていません。優先順位が混乱しますし、リソースの浪費となりやすいからです。新しいこと、デジタルに抵抗のある人をEC要員として育成したほうがましとも言えます。

 

・細かいポイントでいうと

・・デスクワークのできる人

いくら販売の知識があっても、店頭にずっといた人は、机(PC)にずっと向かっての作業というのはつらいようです。うろうろ歩き回りたいそうです(偏見ではないと思いますが)。これも時間が解決することですが、短期で向いている人というと、デスクワークのできる人、ということになります。

・・PC、EXCELに使い慣れていること

PCが使えるのは大前提ですが、むずかしい機能というわけではなく使い慣れていることが重要です。作業の効率、所要時間の問題です。同じようにEXCELです。こちらもむずかしい関数ということではなく、使いなれていることが重要です。ECでは、分析や表作成といったことだけではなく、商品説明の作成、修正、リンクの作成、コンテンツの依頼資料、情報の整理といったことでもEXCELをよく使います。役割にもよりますが、EXCELで作ったデータを(CSVなどに変換して)、管理画面からECシステムへアップロード(ファイルごと登録)して、サイトに表示させることなどもあります。

具体的な手順や作業方法は、配属後に周りの人に教わればよいことですが、PCやEXCEL自体を使い慣れていないと自身の作業にも教えてくれる人にも時間もかかります。

・・管理画面の操作に抵抗がないこと

これも今はほとんどなくなりましたが、ECシステムの管理画面の操作を行う際に、怖がるような人が過去にはいました。以前は、Webベースの画面ではなく、黒いいかにもシステム然としたコンソール画面だったせいもあります。やり始めれば一つ一つは難しいことではないので、取っ掛かりに抵抗のない人です。

・・ある程度几帳面、正確な作業のできる人

ECは、裏で作業していること、登録されたデータ/設定などが、そのままサイト上に表示されてしまいます。そして、それらを顧客も、いろんな種類の不特定多数の人が見ることになります。なので、商品の説明(景表法、薬機法にも関わります)、価格、納期などが間違っていても、そのまま表示されます。そして、店頭などよりも影響範囲が広く、また、(画面キャプチャーなどで)記録もされることもあるという状況が大きく違います。そのため、とりあえずの対応は難しく、店頭で販売員さんが裁量で説明をしてといったことで対処できないので、サイトへの掲載の処理には責任を持たなくてはなりません。そのためには、「ある程度」正確な作業をできる几帳面さが必要かと思います。

・・質問ができること、ある程度自分で調べる気があること

例えば、ECやWeb、システムに関するアルファベットの略号、カタカナ用語、システム用語が飛び交っています。元がシステムから派生したり、海外から入ってきたりしているものが多く、日本語を使えと主張してもすでに広く使われている場合はしょうがないことなので、身に着けていきましょう。

わからないことをわからないままにしていると、ミスとなり、サイト上に間違った情報が表示されることや、トラブルとなることもあります。その場合のほうが多くの人に迷惑をかけることとなります。

また、用語などは他のメンバーにすぐに聞くことなどで解決できますが、聞かれるほうの時間、手間の問題もありますので、だんだんとある程度は、自身で調べるようにするということは必須でしょう。よく言われることですが、「あなたの質問に答えてくれる人は、あなたの代わりに調べてくれている人」である場合が多いことを心しておきましょう。用語の説明レベルは、今は、ほとんどの場合、ネットで検索すれば出てきます。ただ、単純に検索結果のままでいいのか、所属する会社による意味合いがあるのかは、ちゃんと確認しましょう。この段階での質問の回答を厭う人はいないはずです。

・・こだわりの強すぎない人

几帳面さを求めるのとは、逆のような感じですが、正確さ/緻密さやクリエイティブへのこだわりです。ビジネスを行っている意識、目標にあっているかというレベル感などを踏まえることができるかということです。制作や施策には、納期がありますし、部門内にも後工程の人たちがいます。それに間に合わなかったり、後工程に負荷をかけて、結果的に制度が落ちたり、ミスが起きても本末転倒です。クリエイティブなどは「素晴らしい」よりは「こぎれいで、わかりやすい(Clean & Easy)」を意識し、主役の商品や施策をわかりやすくすることが重要です。また、賞賛よりも、アクセス数、売上、またお客様からの声などのリスポンスで評価を感じることが重要です。

・・とりあえず歩き出す勇気のある人

ECはいまだに新規事業や新しい分野である要因が多いので、基盤となる業務やフローから構築しなければならないこともあります。ただ、それほど高いレベルを要求されることはありませんので(この辺のレベル感を理解するのも難しいのですが)、ある程度おおざっぱな方針を決めたら、精度を追及するよりもまず歩き出し、後で精度を上げていくというやり方も必要です。上記の新しいことに考えもなく飛びつきやすい人はNGですが、基本的には新しいことに抵抗のない帆とであることが望ましいといえます。

 

・もし参加前に持っていたらうれしいスキルをあえて言えば

どの形のECであっても、結局自身では使わなかったとしても、EXCEL/csv、簡単なHTML/SQL、PhotoShop操作方法、デジカメの使い方、セキュリティに関する最低限の常識、かかわる商材の知識などなどでしょうか。必要があれば、担当後に身につけられることなので必須ではありません。

・・マーケティングの知識

マーケティングの知識というか基本的な考え方を知っている人は、EC内のどの役割でも助かります。が、今よく言われている、マーケティングごっこ的な知識の方は逆に邪魔になります。また、ECや小売は行った施策に対する明確な結果を求める多いダイレクトリスポンスでのマーケティングが多いので、ブランディング的なマーケティングが中心だった人には少し違和感も多いでしょうし、メーカーのマーケティング費用とも桁が違うほどです。そこの認識は必須ともいえます。

 

別の観点から、興味を持つべき人、持ってもいい人

小売や流通は、アナログで人的リソース集中の、労働集約型ビジネスでした。システム人材にしても、POSの運用や業界での古い基幹システムの運用と、キャリアアップにならないからと魅力に乏しいものでした。しかし、アマゾンなどのECの台頭、デジタル化の波に伴い、小売は大変な変動期にあります。リアル店舗にしてもデジタル投資をしなくては利益が出ない事態となり、ウォルマートのデジタル投資は年間、1兆円を超えているほどです。店頭の無人化、物流の多様化、データを使ったOMO、顧客体験の向上への展開が大きく行われ、非常に変化の速い分野となっています。そのため、キャリアップにならないと敬遠していた人材も興味を示し始めています。また、小売等の各社にはデジタルに対応できる人材がいないことが多いため、そんな中でECを担当することで、デジタルに関する大きな役割を担うチャンスがあります。小売業界にいた人がデジタルになじむためにはECは非常によい取っ掛かりであり学びの場でもあるのです。また、非エンジニア人材では、Webマーケティング、EC等の人材が、会社全体のデジタル要員として抜擢、配置されていますし、求人はひっきりなしです。そのため、これまで小売に興味を示さなかった人たちにも魅力的な業界となっているのです。

 

■ECのタイプや商材、販売方法によって、人材は違うのか

ベースは同じといってよいでしょう。上記したような適正とそれぞれの商材などの知識があるということが重要です。これも上記の、これまでの経験に固執するか、引きずられる人、もしくはその段階では違うと言えます。

また、人材のタイプという言い方をしていますが、最終的には(結局は)、顧客との向き合い方、アプローチの仕方、顧客体験の考え方によるもので、これまでの考え方の業務(EC)をしてきた人が、別の考え方へ移るときの柔軟性、マインドセット(心構え)によると考えています。

 

・ECモールと自社EC

あえて言うのであれば、ECモール(マーケットプレイス)しか経験のない人は、すぐには自社ECへの取り組み方の違いに戸惑うということもあります。また逆もです。同じ会社で営んでいても、商材以外の部分の顧客体験がかなり違うと言ってよいのではないでしょうか。同じECですが、ルールの違うゲームのようなもとと考えればよいのかもしれません。

集客がすでにある駅ビルのテナントのようなECモール店と、人通りの少ないロケーションの路面店である自社ECでは、ビジネスのやり方が違うのは当然です。それは、告知や広告といった部分だけではなく、もっと根本となる集客のための特徴を出す考え方や、商品の見つけやすさ、そして、購買のプロセス(チェックアウトフロー)などでもです。また、インフラの考え方も、十分に準備されたものを使ことと、自分たちで選んで導入していく点などでも違います。

ECモール経験者も少しだけ時間がたてば、自社ECになじんでいきます。筆者の感覚的には、自社ECのみの経験者がECモールになじむほうが割と早いと思います。

自社ECでの即戦力が欲しい際は、ECモールだけの経験者よりも自社EC経験者を採用するほうがよいとは思いますが、全くEC経験がない人よりは、育成ははるかに速いとも言えます。ただ、これもどちらかの経験が成功体験となりすぎていて、違いを認識できない、したくない人が向いていないのは、言うまでもないことです。

・商材による違い

EC以前に小売ということで、商材が違えば、その特性を理解しないと販売しにくいので、当然と言えば当然で、少しは時間がかかります。価格が違えば購入決定まで時間が違いますし、用途が違えば機能の説明などの説明の必要、流行のあるもの、賞味期限のあるもの、配送や取り扱いの時間/難易度などの違いも当然あり、経験のあるもののほうがよいでしょう。これらは担当者の特性上の違いうというよりは、これまでの経験によります。これも切り替えのできる人であればほとんどの場合大丈夫ではないかと思います。

それよりも、商材自体よりも、単一カテゴリーのECと複数カテゴリー、総合小売といったECの違いのほうが大きいかもしれません。やりやすさ、学びやすさで言うと、単一カテゴリーが一番良いと思います。筆者のいた総合小売業のECは、ECサイト上での考慮点、商材ごとの取り扱いなどが多岐にわたります。総合小売業のECはトップページ上にカニと靴が同居するなどということもあり、非常にブランディングもターゲッティングあいまいとなる状況が多々あります。併売や同梱なども考える必要がありますので、なじむまでには割と時間がかかります。

・単品通販系ECと通常小売店型EC

健康食品や化粧品などの消費される商材で定期購買な利用を目的とするECと、通常の店舗のように商品をいろいろ見てもらい購買単価を高めていくことが目的のECでは、インフラや一つ一つの業務は同じですが、その使い方やビジネスモデル自体が違うと言ってもよいでしょう。各機能、スキルは活用できますが、全体のストーリーや売上、費用のかけ方、利益の考え方が、大きく違うと言ってよいのではないでしょうか。これも経験者は即戦力に近く、時間をかけても頭の切り替えができない人は向いていないと言える要素になります。

・B2CとB2B

EC固有のスキルは大きくは同じようなものですが、ECに限らず対象の特性が消費者であることと、企業/事業者ということで違います。B2Bでは、顧客が個人ではなく、組織の中で複数の人が関与しています。例えば、窓口担当者、意思決定者、承認者、キーマンなどで、購入決定プロセス、購入動機が違うといえます。消費財系の低単価の商品の場合はそこまで分かれていないことも多いですが、それでも、見積書や請求書が必要となったり、支払いや出荷が別タイミングとなったりということもあります。B2C系のサイトでは、このようなことに対応する機能はありませんし、タイミング/時間軸が違うこともほぼありません。これらに対して担当者のタイプに違いがあるかというと、大きくはありません。他のところでも書いたように、これまで違う種類のビジネスをしてきたことに引きずられるかどうかが一番でしょう。これも時間が解決するともいえます。また、法人営業の営業部隊と連携するECの場合は、最初の窓口や大口の注文などは担当者が直接顧客担当者とやり取りすることが多いので、営業担当者との連携をすることができる人ということもあります。

 

・メーカー機能を持つEC/メーカー発のECなどと仕入れて売る/小売系のEC

製造機能を持つ会社が直販としてECを行う場合と、小売的に商品を仕入れて販売するECでは、まず、利益率が違います。その結果、かけられる費用が違ってきます。また、メーカーの場合は、EC部門からのリクエストで商品開発、独自商品なども行われることもあると聞いています。小売でもPBや独自商品を取り扱う場合もありますが、その商品規模や商品開発に関わる深さが違うといえます。メーカーのECでは、販売ものものよりも消費者などと直接コミュニケーションすることにより、EC以外でも販売する商品の開発のための調査、R&D機能を期待している会社も多くあります。仕入れて売ることが中心の経験者にはなかなかなじみにくいところかもしれません。

さらに、メーカーの場合は、自社EC以外にも、小売やその他の流通に商品を卸している場合が多く、同じ商品を自社ECで扱う場合に、値引きは不可、在庫は卸先優先などといったケースも多いようです。これらは、経験の違う人には非常にじれったいと思いますが、そういったビジネスルール(モデル)と割り切れる人である必要はあります。

 

どの違いも、向き不向きというよりも、そのタイプのなかでの役割に違いがあるということでしょう。もしくは 違う種類の業務があるという風に解釈すればいいのかもしれません。ECのタイプで考えるより、即戦力であれば、単純に、同様の商材、同様の形態のEC経験者がよいわけです。EC経験のない人であっても、経験の商材、顧客が同様であれば、ECのスキルを身に着けていけば割と早く戦力になります。同じように、商材、方法、顧客が違っても、EC経験があれば、基本的な作業はすぐにできるといえます。

結論から言えば、ECのタイプでどうのこうのというよりはというよりは、これまでの経験に引きずられなく、違う部分は違うと受け入れられる人が、どのタイプでも向いているといえます。

 

究極の適正

少し引いて考えると、書籍にも書きましたが、商品だけでなく、商品、ECサイト、機能、物流、支払い、サービスなどを包括的なプロダクトとして、戦略、マーケティング、顧客体験を考えて、それを実行していける、新しいプロダクトへ取り組むマインドがある人は、どんなECにも(事業にも)向いているということでしょうか。

 

■育成/研修

基本は、現場での実務で身に着けていくことが一番と考えます。もちろん、明確な目的や大まかな説明を事前に行うことが非常に大事で、単に現場で背中「だけ」を見て学べということではありません。先輩や同僚のやることを見て、わからなければ聞いて、教えを請いながらは、どの業務でも一緒です。

 

・パートナー/ベンダーさんから学ぶ

特に立ち上がり期、社内に詳しい人がいない場合は、EC業務の中でも、種類がありますが、パートナー/ベンダーさんと仕事をする可能性のある業務、例えば、Web広告などでは、筆者はパートナー/ベンダーから学ぶということが重要で早道だと考えています。筆者自身も、ECの現場仕事は社内に誰も経験者がいない状態で始め、手探りの中、パートナー/ベンダーさんの知識、経験から学ぶことが多かったからです。ECに限りませんが、新規のことを行う場合は、社内にわかる人/経験のある人がいない場合がほとんどです。その場合に、調べることや本を読むだけでは不十分ですし、同業からの情報も得にくい中で、パートナー/ベンダーさんの知識、経験は光明なのです。もちろん、パートナー/ベンダーさんから話を聞く、提案をさせ指摘をする、結果報告を聞き質問をするといったレベルでは意味はあまりありません。パートナー/ベンダーさんと一緒に考え、作業をし、汗をかくレベルまでやってはじめて学べ、自分たちでもできることとなります。少しは時間がかかりますが、社内に知見がない場合には一番の方法と考えています。

(日本の多くの会社では、特に小売では、商品と販売以外の広告その他の業務を、パートナー/ベンダーさんに丸投げし、担当者は外注管理のようなことをしている場合が多かったと言えます。本業の商品と販売に注力しておけば、本業でないそれ以外の業務は外注への丸投げでよいという考え方です。しかしながら、ECでは、上記の業務は、すべてECの本業です。外部に丸投げしていいものはありません。すべてのリソースをすべて社内で抱えるということではなく、「手足」を使ってやる実際の作業は外注しても、考えるところ、計画などの「頭」は丸投げしないということです。規模がある程度大きくなると外注の活用は進みます。頭は自社で抱え、「外部リソースをコントロールできる人材」を育成することが重要です。さらに規模が大きくなると、手足のところも内部で抱えたほうが、効率がよくなる場合も多く、その際の内製化にも役に立つわけです。

・・内製化に向けて学ぶ

パートナー/ベンダーさんから学ぶ究極は、EC運用代行にいったん全部投げてから、学んでいくといったことでしょうか。コストの適正さ、ノウハウの取得、本当の提供価値を発揮できるかといった部分を除けは、レベルの差はあると思いますが、EC運用代行企業に依頼してしまえば、社内には、MD担当者とキャンペーンなどの方向性を決めてくれる窓口のみで、ECは運用できてしまいます。

似たようなケースは建設によくあり、ゼネコンに元受けとして依頼し、その下にいろいろな役割の会社をぶら下げてプロジェクトを進めていくという方法です。システム開発でも大手のSierさんに元受けとして発注し。。。というパターンです。社内にリソースがない場合、特に頭となる部分が不足している場合は、この元受け方式(ゼネコン方式?)が向いています。そのうえで、できるだけ元受けの業務に入り込みながら、頭となっている元受け部分を内製化し、後の手足の部分は必要な部分を内製化するかどうか決めていくということです。できれば、EC運用代行企業に依頼するときに、将来的に内製化したいと伝えておくことがフェアだとは思います。入り込んで経験し、学んでいくのが一番育成には早く、効率的です。その前提であれば、少し高めのフィーを払って納得してパートナー/ベンダーさんに協力してもらうなども考えられると思います。

 

【図 部門組織図と内製化】

 

・・システムと制作

ECの業務の中でも、少し例外的なものは、システムや制作です。これらは、上司などにしっかりと知識、経験を持った人がいれば、内部育成できる可能性もありますが、そうでない場合は、パートナー/ベンダーさんから学ぶ方法では無理と考えています。規模が小さかったり、簡単なツールだけを利用して行える段階であれば可能ですが、ある程度、規模が出てきて、システムが複雑化したり、他システムとの連携が発生したり、制作の高度化、制作量の増加の場合はむずかしいと考えています。制作であれば、外部の研修などに派遣しある程度身に着けてくることは可能ですが、実際の実務ができるようになるには時間はかかると考えてください。
システムは、(システム教育を受けたことのある)社内に指導できる人がいないのであれば、中途採用をしてください。契約や協力会社の常駐的なものも補完的にいいとは思いますが、ECにとってシステムは本業部分ですので、内部の担当者を置くべきと考えます。(システム教育を受けたことのある)適する人が採用できれば、後はある程度育成が可能となる場合もあります。

Web制作(Webデザイン&コーディング)もできれば一人目は外部からの採用がよいと思います。文字の修正、画像の置き換え等であれば、すぐに育成可能と思いますが、時間をかければ、外部の研修などを利用してある程度は内部での育成も可能です。ある程度のボリュームのページ全体を自信を持って作成できるようになるには、かなり時間を要するでしょう。Web制作担当者や外部パートナーへ営業側(マーケティングやMDなど)の要望をまとめ、ディレクションをしていく、Webディレクターのような役割は、営業側寄りの部分は、コミュニケーション能力があり、まとめる力のある人であれば、どういった要素をWeb制作担当者に伝えるべきかを学ぶことにより、内部育成のほうが早いとも言えます。ただし、本来は、Webデザイン&コーディングを理解し、どのような制作手法であれば、ビジネス側の要望に応えられるか、要望を実現するのにはどのくらいの時間、費用が掛かるかということが十分わかっているべきでしょう。これも、社内にわかる人がいれば、案件をこなしながら教わっていければ可能です。教われる人がいない場合は、営業側とWeb制作担当者の間で、行ったり来たりして、最初のうちはある程度失敗やトラブルを経験していけば十分身に着きます。

うまくいかないのを、Web制作担当者や外部パートナーのせいにしている担当者、事業者をよく見ますが、実際はそうでない場合が多いです。そのようなスタンスでは、制作のレベルや生産性(そしてECの成長)は上がっていきませんし、内製化もできませんし、制作担当者が求められているレベルに育成されません。筆者がよくいうことに、外部のパートナーは、ちゃんと言わなくては要望通りのアウトプット/制作物は出せないし、ちゃんと言っても要望通りのアウトプット/制作物にならないこともあるので、業務を理解してある程度先回り的に、途中で何回か確認をしていく必要があります。内部の人間通しでもむずかしい意思の疎通は、外部の人とであればもっとむずかしいということなので、経験をしていくのがやはり一番です。

 

・後工程、前工程を学ぶ

さらに、よく内部の担当者や外部パートナーに納期をはじめ無理をお願いすることがあります(お願いであればよいですが、知見がなかったりでわかっているのか不明ですが、一方的な強い要望を当たり前のようにしている事業者さんも多々います)。人にちゃんとしてもらうためには、自身がちゃんとしている必要があるということです。欲しいものを欲しいタイミングで手に入れたければ、ある程度業務を理解したうえで、必要なものを必要なタイミングで提供する必要があります。外部パートナーにアウトプットに文句を言ってばかりではなく、事業者側の依頼の仕方について襟を正して行うということが大事です。ECに限らずビジネスで成果を出すためには、結果のために考え動く必要があり、他を非難していても必要なものを必要なタイミングで入手できなければ、それは担当者の責任です。そのために、自身の後工程(制作の場合は、ディレクター場合の後工程はWeb制作)の業務/手順を大枠理解し、かかる時間/手間、費用の感覚を持っていることが重要だと考えています。

筆者がいた事業会社では、制作のディレクターはもちろんのこと、営業側の担当者にも、これらの知識/感覚を身に着けるように推奨していました。そうすれば、ECチーム全体のレベルアップ、生産性アップ、成長の加速ができるからと考えていました。

制作に限らず、自身が担当している業務の前工程と特に後工程の手順、手間などを理解することはとても重要です。理解の上、依頼をすれば求めているものがより求めているレベルで獲得できます。また、上にも書きましたが、ECのキャリアパスは隣接業務へと担当を増やしながら、上位職へなっていくことが多いわけですので、当然、前工程、後工程の理解は必要となります。

他のどんなビジネスでも、上記は同様のことですが、歴史の浅いECでは、特に求められる場合が、まだまだ多いと言えます。

また、制作担当者のもっとも厄介な(時間のかかる)業務は、営業側から納期通り、必要な情報をもらうこと、ラフデザインなどの中間制作物、最終制作物のチェックを〆切通りにしてもらうことだったりします。なので、ポーンと外部から来た人よりは、内部で育成された人のほうが向いている仕事かもしれません。

 

・全体の中の役割、位置づけを意識させていこう

各担当者に、できるだけ情報を開示し、おのおのの業務がEC全体の中でどういう意味があるか、他にどんな役割があるか、自身の業務がEC全体の結果のどこにどう効いてくるかを理解、意識させることは育成にとても有効です。

ECはいろいろな数字が測定できますし、そのパフォーマンスは社内でよく語られています。しかし、割と、特に新人は、そのパフォーマンスと自分の業務の関係性がわかっていなかったり、さらに、EC業務全体が見えていなかったり、担当外の業務ぜんぜん知らなかったりします。実は隣の席に座っていて話をよくする他の役割の人の業務を全くわかっていなかったりもします。PCに向かっての作業が多いためもあり、作業の結果が見えなかったりもするのです。

・・ECの事業活動の中での位置づけ

そこで、できるだけ明示的に(繰り返し)、全体の業務図、業務フローのなかで、あなたの役割はここで、こういった意味があるということを説明、伝えていくことをおすすめしています。既存のスタッフでも理解の少ない場合も多いといえます。これは、EC自体の歴史が浅いこともあり、他の業務よりも一般化されていなかったり、ブラックボックスやあいまいなところも多いからといえます。下記はかなり上流のフローなのですが、まずはこういったところから、各担当者の位置づけを説明し、さらに細かいプロセスのなかでの説明をしていきます。

 

【図 ECのバリューチェーン】

・・自分の業務のレベルアップが何に効くのか

今はあまりないと信じたいのですが、以前は、MDやマーケティング担当以外に、売上情報やアクセス状況、特に企画単位や商品別が開示されていないEC事業者がありました。これでは、他の担当者は、自分の業務がどうパフォーマンスに影響しているのか見えません。できるだけ、全体の数字(KGI)やそれぞれのKPIをこまめに開示し、KPIツリーなどで、担当者が行った業務、改善がどこに効いたのかを理解させることが必要だと考えています。分析ツールで勝手に見なさい、ではなく、明示的に説明、解説していくことが重要です。

割とこつこつ系の作業的な業務が多いのもECの特徴ですが、その担当者が行ったことがどう営業結果に影響したかを見えることはモチベーションアップになります。また、顧客に直接触れることの少ないECでは、商品情報やサイトの作り、物流などの顧客に直接触れる部分は、店舗の内装や販売員が行う「接客」のようなものです。レベルが上がり、改善されれば、集客にも、売上にも、リピートにも貢献します。

 

全体の業務の把握は、もちろん業務の後工程前工程の理解の助けになりますし、業務の幅を増やしリーダーになっていくのにももちろん役に立ちます。リーダーとなる人間が営業数字を知らないというわけにもいきませんので、この2つの意識づけは、育成に大きな力を持つといえます。

 

・初心者の育成

・・ノールックバックパス方式?

できるだけ早くあるレベル以上の人材を育てたいときは、乱暴な手段ですが、新人担当者に趣旨を話した後、わざと丸投げをすることです。最初は本人もひどい目にあいますし、関連する業務の担当者に迷惑をかけますが、結果的に早い育成ができます。このためには、上司、関連の人が、できるだけ待つ、失敗するとわかっていても途中では口を挟まないということと、最後の最後に間に合わないときや、トラブルになるときに上司が自分でやってしまうという覚悟は必要です。この方法で育成された人間は、打たれ強くなることももちろんですが、ECやデジタル関連で次々と出てくる新しい手法やソリューションなどを、最初から任せられる担当者となる可能性も高いです。自分で調べて、考えて、目途をつけて、実行する、失敗を知っているというのがベースのスキルとなります。ある人が、ノールックバックパス方式と呼んでいました。

(ちなみに、筆者が事業会社で採用するとき、クライアントの募集要項を書くときは、最後の要件に「痛い目に会ったことのある人は、尚よし」と入れています」

・・しっかり育成方式?

ノールックバックパス方式とは違い、しっかりと伴走しながら、一つ一つを指示、実行、確認しながら身に着けていってもらう育成方式です。育成担当には負荷がかかります。独り立ちまではやや時間はかかります。先輩担当者の助手やアシスタントとして働いてもらいながらという形でしょう。指導できる担当者がスキル的にも、時間/リソース的にもいるかどうかです。先輩側もスキルが高くない場合は、一緒にノールックバックパス方式になってしまうこともあります。

 

・EC以外の業務との兼務

EC開始時期や規模が小さい段階では、EC担当者が少ない、EC部門内で兼務が多いというのは当たり前ですが、EC以外の役割と兼務している場合もよくあります。本来は目指すECの規模に対するリソースは専任で置き、ノウハウをためながら、目標に向かって成長させていくべきですが、背には代えられないというところでしょうか。

その場合、兼務はしょうがないのですが、できるだけ実施してもらいたいことがあります。それは、一日のなか、もしくは、1週間の中などでのEC業務にかかわる時間帯と総時間を決めて、その時間は集中してもらい、そのうえで兼務をしてもらうということです。ECが後から入ってきた業務の場合、元の業務の手が空いたらECの商品を登録するとか、メルマガを送るなどといったやり方をしているところがあります。店舗で顧客がいない手空きのときに販売員さんがバックオフィスでDMを書いたりするノリと同じです。これでは、EC自体も成長しませんし、担当者のスキルも上がりません。ECにとって、商品登録もメルマガなども本業です。本業を手空きのときにやるという考えで、担当者のモチベーションも上がりませんし、結果も出ません。改善もできませんし、ノウハウもたまりません。せめて、毎日午前中はEC業務を行うとか、毎週火曜日の午後はメルマガ作業を行うとかの設定をし、上司や関連部署がそれを尊重し、EC業務にあたらせるべきでしょう。同じ兼務でも、全く成果、成長が変わってきます。

 

・初心者からリーダーへの育成

もちろん、ポジション的、適正的にすべての人がリーダーになれるわけではありませんが、この人材不足のなか、可能性のある人は、どんどんとリーダーへ育成して欲しいと思います。

一般的には、その業務がこなせ、理解が高く、他の人の指導などもできるような人がだんだんとリーダー化していき、どこかで正式に任命される場合、または、可能性のある人をリーダーとしてアサインし、他の人よりも業務をこなせるようになってもらい、指導もできるようになってもらうといったことでしょう。前者ができる人がいればそれが当然で、マネジメントからも楽です。人材不足ななかなかなか難しかったり、時間がかかるのも当然です。後者は割と取られている方法であると思います。本人への負荷は高いので、動機付けやフォローアップが必須です。

筆者は、ECの立ち上がり期に、前者のかなり乱暴な形をよく行っていました。これは、育成と業務の確立の両方を意図したものです。新規に始める業務に初心者がアサインされ、苦労の中、やっとなんとか形になってきた段階で、その業務のガイドラインとマニュアルの作成を依頼するのです。これは担当者への負荷は高いですし、嫌がられることも多いですので、動機づけが重要です。後から入ってくる人への指導を依頼するとともに、それができるようになった際にリーダーとなってもらいたいことなどを伝える必要もあります。断わってしまい誰か違う人が引き受ければ、その人が将来リーダーとなってしまいますので、そういったことでよいかと本人への確認も必要かもしれません。

マニュアル化することで理解は高まりますし、指導することでスキルも上がっていきます。さらに、業務も確立され、生産性も上がっていくという一石二鳥にも三鳥にもなります。筆者はさらに、このリーダーとなる人を中心に、メンバー全員で定期的にガイドラインとマニュアルの見直し、改定をしてもらっていました。そうすることでメンバーの参加意識も、業務に対する自負も高まっていきます。リーダーが不在でも代行できる人も育ちますし、さらにリーダーとなれる人ができるということです。

 

新しい手法、ツール、トレンドがどんどん出てくる環境下であるECやデジタル分野では、これまでのやり方、考え方だけではなく、ECに関わるほとんど全員が、新しいことに取り組まなければならないでしょう。

その場合に、新規に身に着けるには、上記のような流れで、そして、それをある程度、手順化、マニュアル化していくことも大事で、人に伝える、教えるということは、自身の理解も深まり、より高いレベルで身についていくことになります。また、キャリアパスのところでも書きましたが、より広い範囲や上位の仕事をしていく際に、今までの業務を抱えたままでは無理なので必要なプロセスとも言えるでしょう。上位になればなったで、そのポジションでも、さらに新規のことを調べ、身に着け、人に教えていくというプロセスがあるのは当然です。

 

・担当者/リーダーになったら(育成出来たら)、外に出そう!

育成のためにはスタッフに自信を持たせるということも重要です。

小売業全体のそうですが、社外との交流も少なく、転職などによる人材の流動性も低いEC業界では 他社が何をやっているかという情報も乏しいと言えます。また、歴史も短いですし、次々と新しい手法が生み出されなかでは、何が正しく、他社ではどうやっているのかということを知ること機会も少ないのです。そのため、自身が自社でやっていることに自信が持てないということが多々あります。

また、社内だけで育成されてきた人材に関しては 経営層はその人たちがECなどに詳しくない段階を知っていて、わずか数年で詳しくなるとは思えず、担当者からの説明、稟議などを認めてよいかわかりません。担当者も、経営層から理解できない、認めともらえない、から、ビジネスとして成長できないという、両すくみのような状態となっている会社が多いようです。

そこで、他社の情報を聞きに、セミナーに出かけることや、交流できるところで情報交換を行うことにより、自分たちがやってきたことは、EC業界的に間違っていない、レベルは低くないということを確認できることは重要です。そうすることで経営層に自信をもって説明できるようになり物事が進むようになります。自信はスキルアップに重要です。さらに、他社がやって成功しているような事例を持ち帰り、検証し導入することで事業成長の可能性もありますし、そのプロセスを経験することは、担当者として新しいものに取り組むという重要なスキルを獲得することになりますし、さまざまな知見を得ることにも役立ちます。

 

■人材の獲得、育成の目的

人材の獲得、育成の目的ですが、全般的な底上げのために、とりあえず全メンバーが身に着けるといった形で育成していく場合もありますが、本来は(通常の会社の人事が考えるように)、成長を踏まえ、その段階でのあるべき組織、必要な役割、必要なスキル人材、人数などを想定し、育成にかかる時間を考えて育成していくべきです。ECを初めとするこういった成長分野では、想定どおりに行かないことも多く、巻きで(一旦立てた想定よりも早め早めで)、育成していくことが、成長のドライバーにもなります。

ただし、厳格にいうと、規模や成長の段階で求められる人材は違うとも言えます。特に事業全体の責任者は違います。立ち上げ前、立ち上げ期、初期成長期では、全体がわかり、どの部分も兼務で行えるような人材が必要となります。

 

■最後に

ECの成長には、コンセプトの徹底が最も効果があり、そして、新しいソリューションやツールなどの導入となる流れですが、どちらもそれを実現させるために、まず基礎的な知識と基本的な考えを身につけた人が担当するのが結果的に早道です。

また、他のビジネスにも言えることですが、ECに向いている人は、周りに知っている人がいなくても自分で調べて、自分の頭で考え(ある程度めどをつけ)、自分で実行できる人といってもいいのかもしれません。新規にECを始めるだけでなく、ECにもいろいろな新しいツールや手法がでてきています。それらを(他社が入れているからと単純に導入するのではなく)本当に自社にとって意味があるのか調べて、評価して、導入するようなことも含めてです。筆者がECに関わり始めたときは、MAツールもリコメンエンジンもサイト内検索ツールなどもありませんでした。そういったものが出てきたときに、ちゃんと調べて評価して、提案してくれるスタッフは本当に助かりますし、そのあと、ちゃんと導入、活用できるようにしてくれる人材が重要です。EC、オムニチャネル、DX、その他のビジネスも含めて、不確定要素の多い時代に、どんどんと新しいものが出てくる中、既存のビジネスや今やっていること、単に他社がやっていることの範囲の「海図」をあてにするのでなく、担当者は自分で調べて考え実行できる「コンパス」のようなスキルを持つことが重要であるということです。これは自社に長くいる場合も、新しい環境へ移る場合も、間違いなく評価される能力といえるでしょう。

以上

 

20231229 初版作成

20250831 修正Webサイト掲載

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